自動車の変速機(
トランスミッション)がMT(マニュアル)からAT(オートマ)が主流になり、皆さんが乗っている車もAT車が多いと思います。
MT車の変速は運転者自身が行いますが、AT車の場合オートマチックトランスミッション(以下、AT、ATミッション)が自動変速してくれます。
その自動変速を可能にするために「
オートマチックオイル」正式名称は「オートマチック・トランスミッション・フルード」(以下、ATF)が、ATミッション内部に充填されています。
<オートマチックトランスミッション機構>
ATミッションの働きを簡単に説明すると、扇風機を向かい合わせにして片方を回転させ、その風力でもう一方の扇風機を回転させていると考えてください。
エンジンの回転が主力として羽を回転させ、その力を受けて回転をするのがATミッションといった感じです。
ことのときATミッション側の羽の回転を止めたとしても、エンジン側の羽はATミッションと接続されているわけではないので、エンジン側の羽は通常通りの回転を続けることができます。
AT車が「N」レンジなどに
シフトチェンジをせずに駐停車したとしてもMT車と違いエンストしないのは、エンジン側の羽に負荷をかけ止めることができず、自由に回転し続けているからです。
<ATFの働き>
上記の説明であるエンジンの回転力を伝える風の役割を果たしているのが、オートマチックフルード(ATF)です。
風の役割をする純正のATFは、その「車種」「ATミッション」に合った「粘度」や「性能」で作られています。
「年数」や「走行距離」と共に徐々にATFが劣化してくると、ATミッション内の「滑り(パワーロス)「や、「変速ショック(変速時の振動)」が大きくなったりします。
(注意※1)
<ATFの交換時期>
メーカーや車種によっては「ATFの交換は不要」となっていますが、ディーラーなどの販売店では「5万キロ」、もしくは「変速ショックが大きくなったとき」にATFの交換を薦めています。
しかし「ATF交換不要」とされている車種が多く、加走行車(ATF交換時期を過ぎた車)がATFを交換したことで、ATミッションの不具合が発生したと聞いたことがあります。
そのためディーラーなどの販売店では、走行距離が「60000〜70000キロ」を越えた車にはATFの交換を薦めず、ATFを交換したことによる不具合が出る可能性を伝えることもあります。
(余談※1)
ATF交換の必要性の有無を迫られると難しいところですが、ATミッションに限らず機械に使われている油脂には「各部品を滑らかに潤滑」させ、「摩擦」や摩擦による「焼きつきを防止」するため油脂が充填されています。
ですがATFは「劣化」することはあっても「壊れる」ということはありません。
しかしATFを交換しないことによるATミッションの不具合はでてきます。
ATF交換で「治る不具合」もあれば「治らない故障」もあります。
もしかしたらその故障は定期的にATF交換をしていれば避けれた故障かもしれません。
しかしメーカー側がATFの交換を必要としていないことから、圧倒的に「ATF無交換で走行」している車両の方が多いでしょう。
それらの車が「滑り」や「変速ショック」が大きくなった以外に不具合が発生しているかというと定かではありません。
上記のことから、定期的にATF交換するべきかは車の「オーナーの考え方」や「車に対する気持ち」「気分次第」で決まってきます。
ATF交換は高額な料金設定なので、安易にどちらがいいとは決めつけることはできません。
ご自身でよくご検討のうえ判断してください。
<ATF交換で起こりうる不具合>
ATミッションはマニュアルトランスミッション(以下、MT、MTミッション)と違い非常にデリケートな構造になっています。
そのためホコリ一つ許されないATミッション内部部品交換作業など、ほとんどのディーラーや
自動車整備士もやったことは無いのではないのでしょうか。
(余談※2)
そんなデリケートで整備士でも触れないようなATミッションは、加走行車がATFを交換しただけで不具合が発生することがことがあります。
ATFの成分の中に洗浄作用があり、洗浄作用でATミッション内部を綺麗に保っています。
しかし長期間の使用で劣化したATFは徐々に洗浄作用が失われ、ATミッションの配管内に「スラッジ(汚れ)」が、「鉄粉」がオイルパンに溜まってきます。
スラッジや鉄粉が溜まった状態でATFを交換してしまうと、新しくなったATFの洗浄作用で配管内のスラッジが取り除かれ、ATミッション内部に流れ始めます。
このときスラッジがATミッションから綺麗に抜ければよいのですが、大きな塊として取り除かれたスラッジがATミッション内部で詰まることがあるのです。
また
オイルパンに溜まった鉄粉などを新品のATFが洗浄作用で舞い上げ、ATミッション内部に送ってしまうことで詰まることがあります。
<ATミッションの故障>
・AT車なのにエンストする。
・ATミッションが滑ってエンジンの回転は上がるが車が前に進まない。
・バックなど
シフトチェンジができない。
<ATFの交換方法>
ATFのレベルゲージから交換する方法で、「上抜きタイプ」といわれるATF交換機です。
ガソリンスタンドやカー用品店などの新しめの店舗で主流の方式で、作業者の技術を要さず、簡単にATFを交換したい店などに多くあります。
循環吸引方式のATF交換は、オイルパンに溜まった「ATFを排出吸引」したのち「新油を注入」を繰り返すため作業効率は悪く、よく洗濯機の「すすぎ洗い」に例えられます。
すすぎ洗いなので「約3〜4回繰り返し」行わないと効果がなく、交換するATFの量が「3〜4倍」必要となります。
古いATFと新しいATFを混ぜて抜き変えていくので、一度に大量のスラッジを巻き上げずに交換できるという利点があると聞きます。
「ATFクーラー」ライン途中にATFチェンジャーを取り付け、片方で古いATFをATFクーラーラインから抜き取り、その反対側から新しいATFを圧送してく方式です。
ATFラインの途中を切り外しての交換となるで、少量のATFで交換ができ、なおかつ交換率は90%を超えます。
循環吸引方式より効率がよいのですが、「ATFラインを取り外し」など作業工程が増えてしまうので、ディーラーやカーショップの一部店舗で使用されていることが多いです。
(余談※3)
このタイプのATFチェンジャーの正式名称はわかりませんが、古くからあるディーラーなどでATFチェンジャーを買い替えしていない店舗などで見かけることがあります。
「ATFクーラー」ライン途中にATFチェンジャーを取り付け、圧送方式とは異なりエンジンを回してATFを循環させます。
エンジンを回転させることでATミッションも回転し、ATFは循環しつつATFクーラーに流れてきます。
ここで切り離されたATFクーラーラインから古いATFがATFチェンジャーへ流れ、その流量に合わせて新しいATFがレベルゲージから補充されていきます。
圧送方式と比べATミッションの流れを利用することから、無理な圧力はかからずスラッジの舞い上げもないと思われます。
更に配管に溜まったスラッジも充填方式と同様、徐々にATFを交換していくので一度に大量のスラッジをはがすことは少ないと思います。
交換率も上記の二つの方式の間ぐらいではないでしょうか。
<ATF交換での手抜き整備>
上記に使用されるATFチェンジャーの多くは、設定さえできれば自動でATF交換をしてくれます。
しかし充填できるATFの量が少ないため途中ATFチェンジャーを止め、新しいATFを補充し古いATFを捨てる必要があります。
そしてATF交換の作業時間が長いことから、作業スケジュールが詰まっている整備士による手抜きが行われることがあります。
ATF交換の作業自体はたいしたことはありませんが、ATFチェンジャーの準備からATFの充填、途中の新油・廃油処理など交換が完了するまでの拘束時間が長いため、ATFの交換量を減らし時間短縮をする整備士がいます。
ATミッションのオイルパンにはドレーンプラグが取り付けてあります。
これをエンジンオイル交換と同様のやり方でATFを抜き、レベルゲージから新しいATFを補充していくのです。
作業が簡単で時間も掛かりませんが、オイルパンからATFを抜こうとしても複雑に作られたATミッションのオイルパンからでは、ほとんどATFが抜けることはありません。
(そもそもエンジンオイルのように交換できるようになっていません)
それをこのようなやり方で数回繰り返すだけでATF交換したものとしています。
ATF交換は正規の方法で交換したとしても、かならずしも「綺麗な赤」に戻るわけではありません。
そのため点検後にATFを確認して「赤」ではないからといって、必ずしも手抜き整備をされたとは限りません。